先日中国でのipadが商標で話題に上りましたが、今度はブラジルでiPhoneの商標が問題となっています。 (参照:「candy」を商標登録。パズルアプリ「キャンディークラッシュ」の英King社)

1.背景

apple社がブラジルでiPhoneの商標権を取得しようとしたところ、ブラジル国内の電機メーカーが既に商標権を取得しており、andoloid端末にiPhoneという商標既に使用していたため、申請が却下(拒絶査定)となりました。

2.使用主義と先願主義

米国での商標法は、基本的に使用主義を採用しています。よって、先に出願した者よりも使用している者の方が強いのです。当然使用予定での出願もできますが。一方、世界を見ると、使用主義よりも先願主義が主力となっています。

使用主義とは、商標の使用をしている者に優先的に登録を認めるという主義です。先願主義とは、先に出願した者に優先的に登録を認めるという主義です。日本はこの先願主義を採用しています。

本来、商標の機能から考えると使用主義の方が適しています。しかし、世界的には先願主義を採用している国が多いのはなぜでしょうか。それは、使用主義の場合に使用を証明するのが面倒であるため、先に出願した者に登録を認めるとした方が審査も楽だからです。

一方で、先願主義を採用している国は、使用主義との調和を図るために、使用主義的な規定も設けています。例えば、日本では、先使用権、不使用取消審判、無効審判などを採用しています。

3.apple社のミス

私は、一連の騒動は、apple社の知的財産戦略のミスだと思います。もっと言えば、apple社内か社外の弁理士がもっと先を見据えた知的財産戦略を立てておくべきだったと思います。

主力になるかどうか分からない商品の名称(商標)であっても、先進国は当然のこと新興国での権利化を先に行っていれば、このような事件は起きませんでした。先進国で商標権を取得するのにかかる費用は$1,000~$4,000です。

一方、訴訟費用は、1件$30,000~$1,000,000と莫大な費用がかかります。有名になる前に権利化を図っていなかったおかげでとんでもない費用がかかってくるのです。

4.商標権者の保護

このような事件をメディアで聞くと、先に登録している企業がおかしい、apple社の商標申請を却下する国がおかしいと思うかもしれません。

しかし、私は当然のことだと思います。

iPhoneという商標は有名過ぎるので、敢えてabcという商標で考えてみましょう。

  国内の甲メーカーは、新商品の携帯電話機にabcという商標を付けて販売しようと考え、abcという商標の権利化を図り、商標登録を受けました。

甲メーカーはその後abcという商標を用いた商品を販売し、細々と販売を続けていました。

しかし、米国の乙メーカーが米国内でabcという商標を付した携帯電話機を販売し、爆発的な人気となりました。

乙メーカーは世界各国にabcという商標を付した携帯電話機を販売し、遂に日本にも進出してきました。甲メーカーは、日本国内で乙メーカーが商品を販売する前から、abcという商標を付した携帯電話機を販売していたのですが、急に日本に進出してきた外国メーカーのおかげで思うように販売ができず、市場では悪者扱いです。

乙メーカーは、日本国内でもabcという商標で携帯電話機を販売するために商標申請をしました。

  日本の特許庁はどうするでしょうか。先に悪意無く商標権を取得し、使用している国内の甲メーカーの商標権があるのですから、乙メーカーの商標申請を却下するのではないでしょうか。

逆に、日本の特許庁が甲メーカーの商標権を勝手に取り消し、乙メーカーの申請を認めると、商標権を取得して使用することに何のメリットも無くなってしまいます。

  特許庁の判断としては、乙メーカーの申請を却下するしかなく、その後は裁判所の判断に任せるしかないと思います。

5.今後

  apple社としては、今後どのような戦略でiPhoneという商標の権利化を図っていくのでしょうか。

(1)商標権譲渡
  商標権を取得しているブラジルの国内企業から商標権譲渡を受けることができれば、晴れてブラジル国内でiPhoneを販売できます。ニュースによればブラジル国内の企業も商標権譲渡に前向きなようです。

(2)取消審判や無効審判
  商標権を潰した後に権利化を図るという方法です。審判や裁判で大金がかかり、しかも成功するかは分かりません。

(3)使用権を設定してもらう
 商標権者に使用権を設定してもらい、iPhoneを販売するという方法もあります。商標権者としては自動的に金銭が入ってきますし、iPhoneも商標権の問題をクリアにして販売できるのですから互いにメリットがあります。しかし、使用料によってはiPhoneは納得しないでしょう。

7.予想

私の予想では、apple社は、大金をはたいて商標権を購入(商標権譲渡)すると思います。それが一番確実ですし、最終的には安く付くと思いますので。

8.教訓

このような事件は、日本の企業にとっても人ごとではありません。できる限り早めに、そして広めに商標権取得を目指し、世界でも出願しておくのが結果としてはコストを抑えることに繋がります。

かといって、最初から広めに商標権を取得するのはコストの面から厳しいのが現実です。

最初は、ピンポイントでの商標権取得を目指し、先の利益が見込めるならば早めに広い範囲での権利化、及び、世界での権利化を図っていくのがよいのではないでしょうか。

これから起業する方や、新商品の発売を検討されている方は、商標権の取得を忘れないでください。